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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)4625号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人寺田熊雄の上告趣意は、判例違反を主張するが、引用の判例は所論の点については適切を缺き、適法な上告理由に当らない。しかして刑法九五条一項の公務執行妨害罪が成立するには、いやしくも公務員の職務の執行に当りその執行を妨害するに足る暴行を加えるものである以上、それが直接公務員の身体に対するものであると否とは問うところでないことは当裁判所判例とするところである(昭和二五年(れ)一七一八号、同二六年三月二〇日第三小法廷判決、刑集五巻五号七九四頁参照)。原審の確定した事実によれば、被告人は、司法巡査が覚せい剤取締法違反の現行犯人を逮捕する場合、逮捕の現場で証拠物として適法に差押えたうえ、整理のため同所に置いた覚せい剤注射液入りアンプル三〇本を足で踏付け内二一本を損壊してその公務の執行を妨害したというのであるから、右被告人の所為は右司法巡査の職務の執行中その執行を妨害するに足る暴行を加えたものであり、そしてその暴行は間接に同司法巡査に対するものというべきである。さればかかる被告人の暴行を刑法九五条一項の公務執行妨害罪に問擬した原判決は正当でありこれを攻撃する論旨は理由がない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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